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札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)277号 判決

控訴人(原審原告)

本向寺

右代表者代表役員

霊山信成

右訴訟代理人

安久津武人

被控訴人・選定当事者(原審被告・選定当事者)

小西幸作

主文

一  原判決中「被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。」との訴を却下した部分を取消す。

二  右取消にかゝる部分の訴を札幌地方裁判所岩見沢支部に差戻す。

三  控訴人のその余の控訴を棄却する。

四  控訴費用中第三項に関する部分は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

控訴人は、本件訴訟において、控訴人が権利能力なき社団であつた明治三四年四月に訴外佐々木勘三郎から本件土地を贈与により取得し、同年一二月一四日贈与を原因として、同月一八日所有権移転登記の申請をしたところ、受付日及び登記原因は右の通りとし、所有者を空知郡岩見沢村字幌向真宗本派寺向寺檀家総代吉川初造外四名なる登記がなされたが、控訴人は昭和一七年三月三一日法人格を取得したので、本件土地について、真正な登記名義を回復するために、本向寺の檀家総代の地位にある者としての前記登記名義人から控訴人への抹消に代る所有権移転登記手続請求権を有するところ、本向寺の檀家総代である別紙選定者目録記載の選定者ら(以下選定者らという)が、右登記簿上の所有者として表示されている者の檀家総代の地位を最終的に承継しているから、右選定者らに対し、本件土地が控訴人の所有に属することの確認と同土地につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするよう求めたこと、これに対し選定者らにより選定された被控訴人は控訴人の請求を認諾する旨の記載のある答弁書を提出したこと、しかし、原審裁判所は、右答弁書の陳述を許さずに口頭弁論を終結し、所有権移転登記手続請求訴訟においては登記簿上の所有名義人を被告とすべきところ、本件土地所有権移転登記手続請求につき、控訴人の檀家総代である被控訴人が被告適格を有するとは認められないとし、また、本件土地所有権の確認請求につき、控訴人と選定者ら間において、本件土地が控訴人の所有に属することについて争いがないと認められるうえ、登記義務者との間の確認請求でもないから訴の利益を欠くとして、控訴人の訴をいずれも却下したことが原審における弁論の全趣旨及び原判決から、それぞれ明らかであり、かつ請求原因事実は当事者間に争いがない。

判旨ところで、給付訴訟においては、その訴訟の原告が給付義務者であるとした者に被告適格があると解すべきであるから、給付訴訟の一形態である所有権移転登記手続請求訴訟においても、原告が登記義務者であるとする者にその被告適格があるというべきである(訴訟要件のひとつとしての被告適格が肯定されたとしても、本案判決における判断はそれとは別個の問題であり、また勝訴判決あるいは請求の認諾の存在と、その趣旨にそう所有権移転登記手続が現実に可能か否かもまた別個の問題であることはもちろんである。)従つて、本件訴訟において、原告である控訴人が、本件土地の登記名義人の承継人として、登記義務者であるとした被控訴人につき被告適格を肯定すべきであるから、右の者に被告適格がないとして控訴人の訴を却下した原判決部分は失当である。

また、控訴人の請求中本件土地所有権の確認請求部分については、控訴人と選定者ら間において、本件土地が控訴人の所有に属することについて現在に至るまで争いのないことは弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、確認の利益を欠くものというべく、従つて右訴部分は失当として却下すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当である。

よつて、控訴人の本件訴のうち、被控訴人に対して本件土地につき控訴人あてに所有権移転登記手続をすることを請求する部分を却下した原判決部分は失当であるから、民事訴訟法三八六条により取消し、更に審理を尽させるために、同法三八八条により、これを札幌地方裁判所岩見沢支部に差戻すこととし、原判決中その余の部分は相当であつて控訴人のその余の控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、同法九五条、九二条、八九条を適用して主文の通り判決する。

(安達昌彦 澁川滿 藤井一男)

【参考・一審判決抄】

二 そこでまず、所有権移転登記手続請求訴訟にあつては登記簿上の所有名義人を被告とすべきところ、本件土地所有権移転登記手続請求につき、原告の檀徒総代である被告らが被告適格を有するか否かについて検討する。

1 権利能力なき社団が不動産を取得したときには、右団体そのものの名義では勿論、代表者にその旨の肩書を冠記した登記すら許されず只団体の代表者が個人名義で登記をなしうるにすぎないとするのが登記実務の取扱い、最高裁の判例(最高裁第二小法廷昭和四七年六月二日判決)である。

2 ところが本件土地の登記簿には、原告が法人格を取得する以前の明治三四年一二月一八日受付をもつて、同月一四日の贈与を原因とする所有権移転登記手続がなされ、その所有者として「岩見沢市字幌向真宗本派寺向寺檀家総代吉川初造外四名」と記載されているところ、その記載自体からみて、仮に「寺向寺」を「本向寺」と読み替えてみたところで権利能力なき団体である本向寺名義の登記とは云えないし、自然人たる吉川初造一人あるいは吉川初造外四名の個人名義の登記とも云えないことが明らかである。そして、右記載中吉川初造「外四名」の「 」の部分は具体性を欠き登記簿上無効な記載と云うべきで、結局右の所有者の記載は、原告の前身の権利能力なき団体である寺向寺(本向寺)の代表者である吉川初造単独人に右団体の名称と代表者である旨の肩書を冠した、いわゆる代表者肩書説と同様な公示方法によつたものと解するのが相当である。そして右のような代表者肩書の方法によつた場合にも、登記手続上は代表者個人名義の登記と同様に扱わざるを得ない。原告は右登記の所有名義人をもつて本向寺の檀家総代の地位そのものであると主張するところ、前記記載自体からも、又総代の地位そのものが如何なる意味においても権利の帰属主体たり得ないことに鑑みてもそのようには解し得ない。

3 ところで権利能力なき団体の不動産につき代表者個人名義の登記がなされている場合に代表者の交替があつたときには、順次旧代表者を登記義務者とし、新代表者を権利者として所有権移転登記手続がなされるべきで(前掲最高裁判決)、右団体が法人格を取得したときには、新法人が最後の代表者たる登記名義人を義務者として右法人宛の移転登記手続を経由すべきものと考えられる。

4 そこで本件につきこれをみると、数次にわたる檀家総代の交替の後に権利能力なき団体である本向寺が法人格を取得して原告となり、なお登記簿上は当初の総代吉川初造に寺向寺の総代である旨の肩書を冠した名義のまま放置されていることが原告の主張により窺われる。

ところでこのような場合、名義人たる代表者と権利能力なき団体あるいはその構成員との関係を信託類似のものと考えるにせよ、委任関係と考えるにせよ、右両者間には、授権された代表者は将来右団体が法人格を取得した暁には新法人宛に移転登記手続をなすべき旨の黙示的合意が存し、新法人は右請求権を当然権利能力なき団体あるいは構成員から承継しているというべきであり、しかも歴代の代表者間に何等の物権変動が生じているわけではないのであるから、新法人成立の時点において、登記名義人たる代表者あるいはその相続人は、後続代表者の存在に拘らず、直接真正な所有者である新法人に対し移転登記義務を負うものといわねばならない。

5 以上の説示から明らかなとおり、本件における登記義務者は吉川初造あるいはその相続人であり、被告らには被告適格が存しないことになる。

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